xvpbvx ＊伝・世尊寺行尹(せそんじ・ゆきただ)和漢朗詠集切(わかんろうえいしゅうぎれ)「仏事(ぶつじ)」 鎌倉中期/古筆・和歌・漢詩・古筆切【時代・筆者に関して】○書風から鎌倉時代中期〜後期とみられる。○古筆家(こひつけ)の極め札に「世尊寺殿行尹卿(せそんじどの・ゆきただきょう)」とある。行尹の仮名書きの真筆としては「七社切(しちしゃぎれ)」が知られるが漢詩を書写した真筆は未詳。しかし本断簡の書風は一連の伝・行尹の名物切などに通有の筆致を示しており、鎌倉時代の世尊寺家の書風とみとめられる。○世尊寺家は藤原北家の支流で平安時代の藤原行成(ゆきなり、こうぜい)以来、書を家業とした。行尹(ゆきただ1286〜1350)は世尊寺家の第十二代であり、行成・行能(ゆきよし)と並んで世尊寺家の三筆としても名高い。当代の能筆として公的な書の揮毫(きごう)に活躍したが、尊円法親王(そんえんほっしんのう)に書を伝授したことでも特に知られる。尊円流は室町時代以降、御家流と呼ばれ公的な書体の基準となる。世尊寺流から尊円流へと書流を受け渡したことになる。○古筆家は室町後期〜江戸時代にかけて公的な書画鑑定の家柄として活躍したが古筆家が鑑定の際に用いたとされる手鑑『藻塩草』（国宝・京都国立博物館蔵）に伝・行尹筆の高島切（たかしまぎれ）がある。高島切と本断簡の字形・書風は非常によく似ている。本断簡が行尹筆と鑑定されたゆえんであろう。また近衞家(このえけ)伝来の国宝『大手鑑(おおてかがみ)』にある世尊寺行能筆「和漢朗詠集切」の書風も本断簡に非常に似ている。○また本断簡は『和漢朗詠集切集成』（汲古書院1998年）に掲載されている。本断簡の解説に「本書は行間を適当に取って揮毫しており極めて品格の高い書風である。」とある。（※書籍の中扉頁・当該頁（画像と解説）・奥付のコピーをお付けします。）○書風について詳しくは本断簡の画像および〈参照画像〉を参看されたい。〈参照画像1〉本断簡と伝・行尹「高島切」（国宝手鑑『藻塩草』）〈参照画像2〉本断簡と伝・行能「和漢朗詠集切」（近衞家伝来 国宝手鑑『大手鑑』）〈参照画像3〉本断簡・掲載『和漢朗詠集切集成』（汲古書院1998年）当該頁画像【内容について】○『和漢朗詠集』の「仏事(ぶつじ)」の漢詩三首（一首目は後半のみ）の断簡となっている。一首目は文学の存在価値〈文学への没入＝即＝仏法の縁であること〉を絶妙に詠じた呪文として古来、文人らの間で大切に唱えられてきた詩篇としてとくに名高い。元・同一本だった同類の断簡（＝ツレ）は広く知られていない。「誤翻為當来世々讃佛乗之因轉法輪之縁 白百千万劫善提種八十三年功徳林 同十方佛土之中以西方為望九品蓮臺之間雖下品應是 保胤」書き下し文と大意 ※『和漢朗詠集』（講談社学術文庫）に依拠〔願はくは今生世俗（こんじょうせぞく）の文字（もんじ）の業（ごう） 狂言綺語(きょうげんきぎょ)の〕※以上、前断簡部分「誤りをもって 翻(かえ)して当来世々(とうらいせせ)讃佛乗(さんぶつじょう)の因轉法輪（いんてんほうりん）の縁（えん）とせむ 白[≒願わくば、文芸の世界に遊んだ罪を 来世の仏法の言葉の縁に転生させたい 白楽天(白居易) ]百千万劫（ひゃくせんまんごう）の菩提（ぼだい）の種(たね)八十三年(はちじゅうさんねん)の功徳(くどく)の林 同[はかりしれない時間におよぶ仏法の種 私が教えを受ける如満大師(じょまんたいし)は八十三歳でありその功徳は林のごとし 白楽天(白居易) ]十方仏土(じゅっぽうぶつど)の中には 西方(さいほう)をもって望みとす九品蓮台(くほんれんだい)の間には 下品(げぼん)というとも足りるべし 保胤[仏の国土はあらゆる方位に広がるが阿弥陀如来のいます西方浄土を望もう西方浄土へは九つの往生の方法があるが 最も困難な下方の方法によってもなんとしても参ろう 慶滋保胤(よししげのやすたね)] 」【材質など】○紙本墨書(肉筆)。斐紙(ひし)に天地・行間に薄墨で界線(かいせん)が引かれている。○朱点(しゅてん＝句読点)と黒点(こくてん＝四声点)およびカタカナ書きの訓点（くんてん）が記されている。○古筆家の古筆了左(りょうさ1572〜1662)の門人である朝倉茂入(あさくら・しげいる)の極札(きわめふだ＝鑑定票)が付属している。【寸法】タテ 約29.6cm×ヨコ 約16.4㎝（※掲載書籍では、本断簡の最終行が紙継ぎによっていることから、ヨコ13.0㎝＋3.4㎝と表記している。）※その他注記など・・・・筆者名は基本的には署名・伝承筆者によっています。自筆・真筆であるか否かについては説明文中でふれています。・詳細は画像資料その他を御覧ください。また、釈文等は省略・誤読もあろうかと思いますので御参考程度にお考えください。どうぞよろしくお願いします。・出品取り消しについて・・・基本的には御入札のない場合に限りますが、画像・解説の改訂を行なう際や、他所にての販売機会との兼ね合いで、出品取り消しを行なうこともあります。たいへん失敬ながらどうか御諒承ください。・お値段については、以前に御意見・御質問をいただいたのですが、必ずしも相場を反映していないかもしれません。主に入手経緯・架蔵分などの諸事情や、個人的な関心に基づいております。今後とも御意見・御教示などお待ちしております。